2014 . 11 . 03

ダウン業界のダークサイドを描いたパタゴニアのアニメーション広告

アウトドア用品の有名ブランド、パタゴニアが提唱するトレーサブル・ダウンのピーアールのため公開された広告ビデオは、親しみやすいアニメーションとは裏腹に、従来のダウン業界のダークな側面を描いた作品です。

彼らの主張に関してはトドの詰まり「可愛そうか否か」という観念的かつ倫理的な問題であり、これに対いしては絶対的な答えがあるわけでもなく当然ながら賛否両論だと思います。

ただ個人的な意見を言うのなら、生きたガチョウがNGで死んだガチョウならOKという短絡的で身勝手な価値基準の下で、自らを正当化し独善的に廻りにそれを押しつけようとする向きには正直いって嫌悪感を感じるものがあります。

(シーシェパードに寄付していたメーカーだということが何となく分る気がする)


それが非営利な愛護団体ならまだしも完全な営利企業であり、やり方は異なれ生き物の命が絡んだ商売をしていることには変わりはありません。

最終的にはガチョウは殺されることになりその役目は食肉業界が背負うことになるわけで、(表現が乱暴ですが)「どうせ食肉用に屠殺されたガチョウなのだから、その後の扱いに関しては当社には一切罪なない」というような主張は、私には甚だ身勝手な言い逃れに思えてなりません。


もう一つの側面として企業がこのような行動を起こすのには、やはりビジネス的の背景があるのではないでしょうか。

一貫して質の高いことで知られるパタゴニアの製品も、かつては値段は高くとも上質な素材を使っていればそれなりのブランド価値が見込める、上質のダウンはやっぱり暖かさが違う、といったことがありました。

しかし現在では新興のアパレルメーカーの技術革新などで安価な素材でも十分機能的な製品が出回るようになってくる中、品質本意でやってきた老舗のメーカーが従来のブランド力をキープしていくには、素材の品質に対する別の付加価値が必要になってくる。

それが「環境保護」であったり「動物愛護」であったりするわけですが、このような付加価値を付けることでライバル他者との差別化を図るという企業戦略が透けて見えるような気もします。


さて、上のアニメーションでは従来のダウン業界がいかに残酷かということを暴くことで自らの正当性をアピールする狙いであり、内容はともかくとして広告コンテンツとしては結構良くできていると思います。

ダウンを着ているガチョウという滑稽な設定はすなわち擬人化の一つの表現と見え、見る者に「これが我々人間だったら」という感情移入を起こさせます。

何より、このようなアニメーションにすることで実写ではあまりに刺激が強すぎるシーンにオブラートを掛けることができるわけです。

(実写でこの内容を見させられたらダウンを着るどころか、今後鶏肉を口にできなくなる人さえ現われるかもしれないですからね)


極めつけはブルー・オイスター・カルトの「The Reaper」という実にエグい選曲で、怪しくドラマチックなメロディー展開がアニメーションにバッチリハマっているのが素晴らしく、秀逸なアニメーションについつい見いってしまいました。


是か非かは別としてこのようなテーマに関して深く考えるということは意義のあることであり、そのきっかけを作る一つの起爆剤という意味においては、今回のアニメーションは手頃なコンテンツであることには違いありません。